KANMAKIの顔料箔のルーツは「金糸」です。
金糸の歴史を紐解くと、漆などで金箔を職人が和紙に貼り付け糸状するという技術革新の賜物でした。
創業者=久保竹夫は、金箔を手作業で“貼る”工程を、金属粉と顔料を混ぜたインクを“塗る”工程へと進化させ、真鍮粉を用いた日本初のブロッキングホイル(転写箔)を開発しました。この箔は、本の表紙への箔押しや大手繊維メーカーのテキスタイル生地へのロゴに利用され、日本の繊維業の隆盛と共に高度成長期に最盛期を迎えました。
1970年代に熱と圧力によって箔押しを可能にする、熱転写(ホットスタンピング)技術が開発されました。その熱転写技術は、高度成長期の大量生産・大量消費の時代において、様々な分野で活用されていきます。例えば、JIS規格の導入により表示が義務付けられた食品包装への製造年月日等の印字にも利用される等、私たちの生活の中に深く浸透していくこととなりました。
金属の熱版あるいは耐熱性シリコンラバー板を版下として、表面に「熱転写用顔料箔」を装着した被転写体(主にプラスチック)に、「加熱」と「加圧」を行い、装飾部分(色を表現する顔料や接着剤)をキャリアフィルムから剥離して被転写体に付着させて加工を行います。
一般的に液体インクを加工する他の印刷方式では、「調色/調合」「印刷」「乾燥」「機械洗浄」の各工程(一連の流れを「ウェットコーティング」と言います)が必要となります。 しかし、顔料箔はすでにそれらの工程を製造段階で済ませており、お客様(主にプラスチック加工メーカー)は②項で説明した熱転写(ホットスタンプ)で印刷するだけ(ドライコーティング)ですので、大幅に工程プロセスを省略することができ生産性向上が図れます。また、廃インク排出ゼロのメリットも合わせてご提案することが可能です。
化学物質に含まれる環境破壊要因に関する規制は厳格化傾向にあります。その中で印刷インクに含まれる揮発性有機化合物=VOCの規制対象に加えられています。
このような情勢の中で、私たちは印刷業界のソリューションモデルのひとつとして、顔料箔を提案しています。
従来の顔料箔は、職人気質の閉鎖的なビジネスモデルと問屋流通のサプライチェーンと相まって「業界内の知る人ぞ知る存在」となっていました。その為、2010年代後半より、製造環境に関する規制強化や、顔料箔の黎明期を支えた職人社長たちの後継者不足により、製品廃盤、メーカーの廃業が相次いでいます。この状況を打開すべく、私たちは顔料箔の製造工程や働き方を見直しています。これまで紙や包装材料に限定されていた製品ラインアップを、より高度な要求に応えるべく工業製品分野への転換に着手しました。その結果、調色やコーティング技術の精度向上により自動車部品、医療機器メーカーへの製品採用に繋がりました。また、その製造技術の精度や品質管理レベルの向上は、ISO9001規格の取得にも繋がり、今の私たちのものづくりの礎となっています。
顔料は、着色に用いる粉末で水や油に“溶けない”ものの総称です。逆に水や油に“溶ける”ものは「染料」と呼ばれます。染料は複数の色を混ぜ合わせる調色が容易で取り扱いやすいのですが、光に長時間当たると褪色してしまう等、耐久性に課題があります。粒子が大きい性質の顔料は、耐久性、耐光性に優れ、着色する面の下地を覆い隠す効果もあります。その為、自動車部品を代表とする工業製品など高い耐久性を求められる分野の色表現には、顔料がより有効なのです。
2015年9月国連サミットで採択された、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標=SDGs(持続可能な開発目標)。その中の12番目の指標として「つくる責任 つかう責任」があります。印刷業界における脱VOCの可能性を模索する、それも「つくる責任」のひとつです。また、私たちのつくる顔料箔は、高い耐久性を持つだけでなく、色材が被写体と化学的に結合している染料と比較し、物理的に固着しているだけの顔料の方が除去が容易であり、リサイクル・リユースへの可能性を秘めた素材として、顔料箔に脚光が集まっています。